第7
次の日、朝の会が終わってから私はまたひとみ先生を呼び止めました。そして、昨日決めたことを、きちんと先生に発表したのです。
「ひとみ繊維が桐生くんの家に持っていってるプリント、今日は私が持っていくわ。彼に伝えなきゃいけないことがあるから、それと一緒に」
私の提案にひとみ先生は飲んだような顔をしました。それはそうでしょう。先生は、桐生くんが学校に来なくなった理由が、少しは私にあると思っているのですから。先生はそう言わないけど、私知ってます。
165(00:47)
だけど、先生がそう思っていたとしても、私はここで諦める気はありませんでした。
「ひとみ先生は言ったでしょ?桐生くんの味方になれって。正義の味方は、自分のいるところに来てくれないからって、味方をやめたりしないと思う。弱い人のところに来てくれるのよ」
それから「もちろん悪はクラスの馬鹿な子達」と付け加えました。
ひとみ先生は、まだの悩んでいるようでした。私はもし先生がこの提案を許してくれなかったら、どうしようかも考えていました。
私は、大好きなひとみ先生の言うことは出来るだけ聞きたいと考えています。だから、もし、ひとみ先生が許してくれななかったら、桐生くんの家に勝手にいくことにします。大人の言うことが正しいは限らない、そう言ったのは先生だから、ひとみ先生が悩んだあとに決めたことは、先生が私をいじて決めてくれたのだとわかるものでした。
「分かった、今日のプリントは小柳さんに任せる」
「きちんと、役目を果たすわ」
「ええ、だけど、みつだけ、先生と約束してほしいことがあるの」
166(2:19)
ひとみ先生は真面目な顔をして、皆を三つ立てました。私が好きな方の、先生の真面目な顔です。今はきっと、私と桐生くんのことを心から考えてくれているのでしょう。
「一つ目、もし、桐生くんに会えたら、先生がいつでも持ってるって伝えほしいの」
私は驚きました。
「会えるなかったの?」
「うん、まだ会いえたくないって」
「どこまでいくじなしなのよ」
私が言うと、二つ目の皆を先生が折りました。
「二つ目が、それ。桐生くんを責めちゃ駄目。味方になってあげるっていうのは、攻撃したりすることじゃないわ。だから、絶対に無理矢理、学校に来なさいなんて言っちゃ駄目」
先生の言うことは納得が出来ました。悪い子を叱るのも正義の味方の役目です。でも、桐生くんはいくじゃしだけれど今のところ悪い子はありませんだから、攻撃しては駄目なのです。
「最後は?」
「うん、三つ目はね、クラスのい子達を悪いなんて言わないで。皆も小柳さんと同じくらい、桐生くんのことを心配してるわ」
167(3:49)
その言葉を聞いて、私は思いました。
ああ、先生はやっぱり的外れ。
最後の約束にだけ、頷かなかったこと、先生は気がついたでしょうか、教室に帰って私は、クラスで騒いでいる子達を見回してみました。クラスの子達は、まるで桐生くんが最初からこのクラスにいなかったみたいに、いつもと同じく何も考えていない顔をして、この時間を過ごしていました。誰一人、桐生くんのことについて話したり、桐生くんのことについて先生に何か訊いていたような子はいなかったのです。そう、誰一人。
だから、先生の言ったこと三つ目だけは嘘です。絶対に嘘。
それが嬉ししいことなのか、悲しいことなのかはわかりませんが、子どもである私の勘違いや間違いでないことは、そのひすぐに証明されることになりました。
昼休み、私は、呆れてものも言えなくなりました。
「なんだよ、お前、あんた泥棒の子どものためにそんなことやってんのかよ。お前、桐生のこと好きなのか」
馬鹿な顔を引っ提げて、ニャニャしながら馬鹿な男子が言ってきたのは、私が昼休みに自分のノートを紙に書き写している時でした。馬鹿な男子の言う通り、それは桐生くんにあげるためのものでした。どうせ家に行くのだから、私の綺麗な字で授業のことも教えてあげましょう、と考えたのです。
168(5:42)
私は、本当の馬鹿を相手になく仕掛けた日本語をどうにか口の中に戻して、溜息と一緒に質問に答えてあげました。
「ええ、少なくともあなた達よりは桐生くんの方が好きよ。彼、弱っちいけど、絵を描くのが上手いもの」
「あんなも描いてるから、弱くなるんだよ」
それはそうかもしれない。おばあちゃんの話を思い出してそう思いましたが、馬鹿な人が一つもっと漏らしいことを言ったからと言って、それまでの百の間違いが許されるわけではありません。私は、無視してノートの書写しを続けました。
私が無限しているのが気に入れなかったのでしょうか、馬鹿な男子はさも、ありもしないプライド、傷付けれたような顔をして「無視してんじゃなえよ!」と言いました。
それでもまだ私が無視をすると、男子は乱暴に私が文字を書いていた紙を取り上げ、腕をあげてそれをクラスの子達に見せびらかしました。
「こいつ桐生のこと好きらしぜ!」
男子の大きな声を聞いて、クラスの中にいた子達がザワザワとこっちをみました。馬鹿な男子はそれで自分が優位なったつもりなのか、勝ち誇こた目でこちらをみました。馬鹿、ここに極まります。私は馬鹿な男子に自分の馬鹿さ加減を教えるため、大きな大きな溜息をつきました。
169
「自分が馬鹿だって、皆に見せびらかしたいのは分かったから、返しなさい」
私が立ち上がって、馬鹿な男子の手から紙を取り返そうとすると、男子はひらりと体をひねって私の手から紙を逃がしました。
この時、この場面を見て、どちらが悪いか、1秒でも考えれば誰しもが分かったはずでしょう。だから本当なら、クラスの皆は、馬鹿な男子が紙を私に返すよう説得できたはずです。
なのに、皆はそうしなかった。桐生くんが読んでいて、隣に座っている私がいつも彼のために戦っているのも見ているはずのに、それをしなかった。
だから、もう一度溜息をついて、馬鹿は男子に、こう質問しました。
「返さないのね?」
男子は無視をしました。私は、溜息とは逆に、これから話す言葉の量に町どいいだけの空気を胸に溜めます。
先生と約束しました。味方を責めちゃいけない、と。
170(8:54)
「人から勝手に撮ったものを返さないなんて、あんた泥棒ね」
つまり敵なら、どれだけ、責めたっていいのです。
馬鹿な男子は、顔を真っ赤にして私を睨みました。
「泥棒、の言葉の意味を知ってるかしら?知ってるわよね、何度も言ってるものね。泥棒って、人のものを勝手に取る人のことを言うのよ?じゃあ、あなたも泥棒じゃない。しかも桐生くんのお父さんが泥棒をしたってことは、私、みてないからほんんとうかどうかわからないけど、あんたが泥棒だっていうのは本当よ。だって、ほら、私のものを勝手に取ったじゃない」
男子の顔は、どんどん赤くなっていきます。このまま行くと爆発しちゃうんじゃないかしら。だけど、私の言いたいことはまだ終わっていません。だから、もし爆発したなら、謝りましょう。
「泥棒は悪いことだわ。そうでしょ?そう思ったから、桐生くんを責めたんでしょ?
そうね、じゃあ、また、あなたの言ってたことを採用するとしましょう。そうしたとして、もし、桐生くんのお父さんが泥棒という理由で桐生くんが泥棒になるのだとしたら、ああ、あんたの家族、みーんな泥棒ね。ひどい家族!あんたのお父さんもお母さんも皆、泥棒。おじいちゃんもおばあちゃんも?本人じゃなくても、関係があることが悪いことだとしたら、もしかしたらあんたの友達だって泥棒かも、いや、もしかしたら同じ教室の中にいるだけで泥棒になっちゃうのかしら。そしたら私も泥棒なのかも、そんなの嫌よ、私はあんたと違って」
171 (10:35)
「うるせえ!」
馬鹿な男子の金切り声が、私の耳に届いた瞬間、私の目には別のものが届いていました。遠ざかっていく男子、近くなる自分の身長,勝手に見上げた天井。
いきなりのことで私が自分の状況に気が付くのには、少しの時間がいりました。呆然としていると、少しずつ左の肩に受けた衝撃と、右の二の腕の痛みが私の頭に届いて、私はやっと自分が突きとばさゃんも、あばずれさん倒れたことを知りました。横では、私が倒れる時にひっかかったのでしょう、椅子が私と一緒に倒れています。
見てすぐにわかる。それは、乱暴、暴力。しては行けないと教えられていること。
私が立ち上がって男子に注意しようと思ったことろで、私の頭にこつんと何かが当たりました。丸まったそれを拾って、拡げて見ると、それは私が桐生くんのために書いたノートの写しでした。
「皆、お前の、ことなんか嫌いなんだよ」
男子は、私のものを取って、壊して、暴力までふるって、その上でそんなことを言いました。
172(12:06)
こんなシーンを見て、私の方が悪いなんて言う人がいたら、その人はきっと頭がおかしい。私は、誰かがきっと味方をしてくれるはずだ思いました。
なのに、いつまで座っていても、私の手を取ってくれる人も、私を慰めてくれる人もこのクラスにはいませんでした。
先生の言ったことは、やっぱり嘘だったのです。馬鹿な男子が最後に言ったことは、あながち嘘ではないのかもしれません。
だから私は、心をすぐに伝えたい私は、思ったことをクラスの皆に聞こえるように、だけれど、あくまでかしこく、叫んだりせず、はっきりと伝えました。
「皆、泥棒よ」
私の言葉の余韻が残るのを防ぐ見たいに、昼休みが終わるチャイムが、その時鳴りました。
帰りの会の後、ひとみ先生から桐生くんに渡す分のプリントを貰った私は、今日は先生の隣の席のしんたろう先生かお菓子を貰ったりせず、さっさと学校を出て行きました。途中すれ違ったクラスメイト達とは、誰とも挨拶をしませんでした。
代わりに私の家の近く毛皮の友達と持ち合わせて、私は桐生くんの家へと向かいます。
173
桐生くんの家のある場所は知っていました。前に道で会って、家はどこなのか聞いたことがあります。大体の位置がわかっているのだから、彼は表札を見ればいいはずです。
同じような形の一軒家がたくさん並んだ場所で、家の前に「桐生」と書かれた家は一軒しかありませんでした。桐生という苗字をどう漢字で書くのか、前に字の形がかっこいいと思ったことがあるので覚えていました。
「ま、小柳の方がかっこいいけれどね」
私はそうひとり言いながら、緊張したりせずに桐生くんの家のチャイムを鳴らしました。
チャイムを鳴らしてから、1分くらい持ってみたけれど、誰かが出てくれる様子はありませんでした。私は2回目を鳴らします。ところが2回目も同じ結果でした。
私は、桐生くんがいないとは考えませんでした。私でさえ、風邪をひいて休んだ時には少しよくなってからもなんだか学校に行っている人達と会いたくなくて外に出なかったのに、桐生くんにそんな勇気があるわけがないのです。
もしかしたら私とも会わない気かしら。そう思って、3度目を鳴らして、次の1分を何をして時とうか、そう思った時でした。やっとチャイムに炊いているマイクから、声が聞こえてきたのです。
174(15:31)
「はい」
元気がなさそうではありましたが、それは授業参観の時に桐生くんと話しているのを聞いた桐生くんのお母さんのものだとわかりました。
「こんにちは!私、桐生くんのクラスマイトで、プリントを届けに来たの!」
「ああ、ありがとう、ちょっと待ってね」
言われた通り、いい子にして持っていると間もなく桐生くんのお母さんが玄関のドアから出てきてくれました。私は、「ちょっと待ってて」と足元で自分の手を舐めていいる友達に行ってから、ちゃんと桐生くんのお母さんに頭を下げます。
「こんにちは!」
「あなたは、小柳さんね。光の隣の席の」
桐生くんのお母さんはお話したこともないのに、私のことを知ってくれていたようでした。なぜかはわからないけど、嬉しいことです。光というのは、桐生くんの名前です。
桐生光。こんなに先生が持ってきてくれるんだけど、今日は小柳さんなのね。ありがとう」
「いつもはひとみ先生が持ってきてくれるんだけど、今日は小柳さんなのね。ありがとう」
「ええ、私が先生に頼んだのよ。桐生くんに用事があったから」
用事、その言葉を聞いて桐生くんのお母さんの顔は、今日の朝のひとみ先生と同じ顔になりました。桐生くんのお母さんは困っていました。もしかすると、彼女まで桐生くんが学校に来ないのは私のせいだと思っているのでしょうか。話したのは、これが初めてなのに。
175(17:19)
「用事って?」
桐生くんのお母さんの質問に、私は正直に答えるに、私は正直に答えることにしました。相手に信じてもらうためには、本当のことを言い以外にないのです。
「伝えに来たの。桐生くんに、私は味方だって。桐生くんには、学校に来てほしいのよ。じゃないと、授業での私のペアがいないんだもの」
私の本当の言葉に、桐生くんのお母さんが少しだけ柔らかくなったのがわかりました。やっぱり、人は嘘をついてはいけません。
正直者は得をする。桐生くんのお母さんから私が次に受け取った言葉は、笑顔に添えられた「上がっていって」というものでした。
初めて入った桐生くんの家は、私の家よりも料理やお洋服の匂いが家全体に染み込んでいるような気がしました。きっと、私の家には夜から朝しか人がいないからでしょう。ちょっと前までなら、ちょっと前までなら、羨ましく思ったかもしれません。
リビングに通された私は、まずソファに座ってオレンジュジュースただ来ました。
176(20:32)
そのオレンジジュースは私の好きな甘いやつで、これだけでも桐生くんのいえに来てよかったと思いました。オレンジジュースを飲みながら、私は桐生くんのお母さんに家に入ってから不思議に思っていたことを言いました。
「桐生くんは?もしかして外に出てるの?」
私の質問に、桐生くんのお母さんはコーヒーを飲みながら首を横に振りました。
「光は、二階の部屋にいるわ。最近はほんとどの時間、自分の部屋に閉じこもってるの」
「絵を描いているのかしら」
思ったことをただ言っただけなのに、桐生くんのお母さんは驚いた顔をしました。
「へえ、光が絵を描くことを知ってるのね。あの子、絵を描いてることをいつも隠すのに」
「学校でもいつも隠してるわよ。あんなに、絵が上手いんだから、もっと皆に見せびらかせばいいのに。桐生くんの絵には、その価値があると思うの」
桐生くんのお母さんが私に気持ちを完全に許してくれた瞬間がどこかであったとしたのなら、きっとことでしょう。やっぱり嘘はついちゃいけません。
「桐生くんが部屋にもっとずっと絵を描いてるなら、応援するし、楽しみにしてる。でも、まだ自分が好きなことを皆に好きって言えないなんていうのは、応援出来ないけど」
「光に、言ってあげて、小柳さん、あんたは本当に光の味方なのね」
177
「ええ、桐生くんの敵だったことなんて一度もないわ」
にっこりと笑った桐生くんのお母さんに連れられ、オレンジジュースを飲み終わった私は、二階への階段を上がっていきました。二階は、明るい廊下に幾つかのドアがついていて、それぞれに特徴はなく、私達はその中の一つの前で立ちとまりました。私の部屋のドアみたいには飾りのついていない、大人しいドア。
桐生くんのお母さんがそのドアをノックします。
「光、友達が来てくれたわよ」
友達じゃありません、でも、私は部屋の中からの反応に耳を澄ましていたので、言い返しはしませんでした。
お母さんの声に反応があるまでには、少し時間がありました。
「。。。誰?」
やっと聞こえたその声は、とても弱々しいものでした。彼を知らない人なら、桐生くんは病気なのかもしれないと思うでしょう。だけど、いつもの教室にいる時の彼を知っている私に、その声は普段の桐生くんのものと少しの違いもありませんでした。
代わりに答えてくれようとした、桐生くんのお母さんが私の名前を呼ぶ前に、私は一歩ドアに近づいて、こう言いました。
178 (21:46)
「私よ」
桐生くんが、私だと気がついたのはすぐにわかりました。中から、慌てた様子が音となって届いてきたからです。何をそんなに慌てているのでしょう。私は、彼をいじめる馬鹿な男子でもなんでもないのに。
「。。。どうして?」
心からの疑問。そういう声でした。
「プリントを持ってきたわ。それに、授業のノートを写した紙もね」
「ひとみ先生が持ってくるんじゃ、何の?」
「代わりに持ってきたのよ。ノートは私が紙に聞き写したわ。それに、桐生くんに伝えたいことがあるのよ」
桐生くんは、何も答えませんでした。だから私は勝手に言葉を続けました。
「いい、桐生くん。私はあなたの味方よ。敵だったことなんて一度もないわ。だから、安心で学校に来て」
「。。。。」
「桐生くんは勘違いしているかもしれないけど、私は桐生くんの味方なの。嫌なことがあるなんだったら、ひとみ先生や私が、一緒に戦ってあげえるわ。だけど桐生くんも戦わなきゃいけない。だって、人生ってリルーの第一走者みたいなものだもの。自分が動きださきゃ、何も始まらない」
179(23:16)
桐生くんは相変わらず何も言いません。
「今日は、それを伝えに来たの」
言いたいことの全部を言えたかどうかは、分かりません。でも、大事なことは言えたと思いました。だから、私はこれ以上は喋らずに、桐生くんからの返事を持つことにしました。桐生くんのお母さんと二人、じっとドアの前で持っていました。
持つ時間はもの凄く長く間感じられました。だけど、私が歳をとってしまう前に、来るべき時はきちゃんとやってきました。桐生くんから、返事が来たのです。
ただ、やっときたその返事は、私が受け入れれるものではありませんでしたが。
「。。。。帰って」
その言葉の意味をきちんと知っている私が驚くと、中から、まるで、攻撃のように次の言葉が飛んできました。
「もう、来ないで、僕は、もう学校には行かない」
私が驚いたのは、何も言葉の意味にだけではありません。桐生くんのその声の匂いは、あの時、私を睨みつけた時のものと同じだったのです。
180(24:51)
私は戸惑いました。私の後ろに立っていた桐生くんのお母さんもでしょう。私は思わずドアに手触れて、桐生くんに尋ねます。
「どうして?」
「。。。僕は、、戦ったりしない」
その言葉です。その言葉が悪いのです。その言葉が、私の心に行けない炎をつけました。お昼のことでつい火種がまだ、残っていて、間違った方向に燃えてしまったのです。きっと私はもう、後ろに桐生くんのお母さんがいることなんで忘れていました。
「戦わなきゃ、また馬鹿にされるのよ」
「。。。。」
「絵のことも、お父さんのことも」
「。。。。」
「桐生くんは何も悪くないのよ!、間違ったことを言われてる。戦わなきゃ!」
私はきっと、悔しかった、のです。桐生くんが馬鹿にされていることもそうでしょう。彼は戦わないこともそうでしょう。それと同じくらい、自分が何も出来ないと知らされることが。
桐生くんは、小さな声で言いました。
181(26:18)
「嫌だ。私は、小柳さんみたいに強くないから」
「。。。このっ!」
どれだけの空気を吸い込んだかしれません、周りの人達を窒息させていたかもしれなません、それくらい大きな声が、出ました。
「いくじなし!」
自分の声に驚きました。でも、それ以上に。
「帰ってよ!」
桐生くんの大きな声は、前に聞きました。だから驚いたのはそこにではなく。
「嫌いだ!、皆、嫌い!だけど小柳さんが一番嫌いだ!」
桐生くんは、きっと泣いていると分かりました。何に対してかはわかりません。いつもなら、私は男の壁に泣くなんて、と言っていたでしょう。でも、驚いて出来ないかったのです。傷ついて泣いている桐生くん驚いて、桐生くんから言われた言葉で心が真っ暗になってしまった自分に、驚いて。
もうこれ以上、ここにいては駄目だと思いました。私は、失礼だとは知りつつも、桐生くんのお母さんにランドセルから出したプリントとノートを写した紙を押し付け、逃げるように桐生くんの家から飛び出しました。
182
家を出たところで、私は持っていてくれた友達も無視して、近くの公園の隅っこのペンチに急いで座りました。
そして不思議そうな顔をする小さな彼女の目の前で、泣いたのです。
そのひはアブズレさんともおばあちゃんとも会いませんでした。まだ、帰る時間があったけれど、泣いた顔のまま会っては行けないと思ったのです。



