One Straw Revolution
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「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 261〜273(第10)
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「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 261〜273(第10)

おばあちゃんの家に着くと私はまた汗でいっぱいになって、きで出来たドアには、また貼り紙がしてありました。書いてあることは、前と同じです。私は玄関から中に入って友達の足を拭き、靴を脱いで静かな木の家の中に入りました。私の足音は前の時と違います。

実は、今日は家で靴からサンダルに履き替えてたから、前は靴下ですりすり、今日は裸足でぺたぺたです。夏になると履く可愛いサンダルを、アバズレさんにも褒めてもらいたかったのに。

もしおばあちゃんがアバズレさんの行った先を、アバズレさんに起こった不思議の正体を知っているのなら、すぐにでもアバズレさんのとこへ歩いていって、そのサンダルを見せたい。そして、アイスを食べながら桐生くんとお話したい。

静かな静かな、家を造っている気の声が聞こえてきそうなくらい静かないえの中で、もしかするとおばあちゃんはまた2回にいるのかな、そう思って廊下を歩いていったのですが、今日は一階にいました。

私が寝室のガラス戸を開ける音が起こしてしまったのでしょう。おばあちゃんは優しくクーラーの効いた寝室で、ベッドに横になったまま私の方を笑顔で見ました。

「いらっしゃい」

「ええ、ごめんなさい、お昼寝してたのね」

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「いや、いいんだ。ちょうど起きたところ」

「それならよかったわ。何か、素敵な夢は見た?」

私の質問、おばあちゃんはにっこりと笑ってくれました。

「ああ、また、同じ夢を見ていた」

そう言って、おばあちゃんはいつもよりずっとゆっきりな動きでベッドの上で起き上がり、カーテンを開けました。リビングと違って控え目な太陽さんの光が差し込みます。あの時のまま、壁にかかるあの絵が光を持ったような気がしました。

私が寝室の引き戸を閉じようとすると、おばあちゃんが「冷蔵庫にオレンジュースがある」と言いました。私は台所から小さなパックのオレンジジュースを2本持ってきました。おばあちゃんは私からジュースを受け取ると、「ありがとう」と言ってベッドの上に置きます。オレンジュースは、私の口の中に少し残ったいた苦いのを、甘さと酸っぱさで流してくれました。

「うまくいった?」

おばあちゃんは、なんのことなのかは言わず、ただそう訊きました。私は、こくりと頷きました。でも、いつもの私ならここからまるでドラムロールみたいに話しだすところなのに、それをしなかったものだから、

「何か、あったのかい?」

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「何か、あったのかい?」

おばあちゃんにばれてしまいました。

「うん、クラスの子のことは、うまくいったんだけど」

私はまるでスープを煮込んでいる見たいな音で、そう切り出しました。

「アバズレさんが、いなくなちゃったの」

今日、あったこと、私はおばあちゃんに全部は話しました。いえ、本当は昨日からのことです。桐生くんとことで落ち込んでいた私にアバズレさんがアドバイスをくれたことや、アバズレさんがどうしてか突然泣き出してしまったこと、それに私とアバズレさんの口癖が同じだったという素敵なことも。

そして今日のこと。アバズレさんはいなくて、他のお兄さんが住んでて、私が好きじゃない味のアイスをくれて、南さんがいなくなった時よりももっと不思議だったこと。

私の話を聞いて、おばあちゃんはアバズレさんの行き先を知らないと言いました。残念だったけど私の中に不思議がもう一つ浮かんできました。この不思議についても訊いてみます

「南さんがいなくなったみたいに、アバズレさんもいなくなっちゃった。なのに、私、寂しいけれど、それが、例えば桐生くんに嫌いって言われた時のような気持ちにはなっていなにのよ」

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おばあちゃんは、「そうか」と頷きました。さすがおばあちゃんは、なんでも知っています。

「つまり、絶対はしていないってことだね」

絶望という漢字を、私は書けません。

「きっとなっちゃんがいつかその子達にまた必ず会えるって確信してるからじゃないかな」

おばあちゃんは、まさに私の説明出来なかった小さな安心を言葉にしてくれました。

「その通りよ。でも、ミステリーの探偵みたいに証拠があるわけじゃないんだけど」

「そうだね」

おばあちゃんは、目を細めて頷きます。

「だけど、なっちゃんの思いはきっと正しい。大丈夫。その子達には、いつか必ず会えるさ」

「ええ、私も信じてる」

私がしっかり頷くと、おばあちゃんは「なっちゃんには先を見通す力があるから」といつか同じことを言ってくれました。

「だけど、もっとお話もオセロもしたかったわ」

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「せっかくクラスに友達が出来たんだ。彼と練習するといいんじゃない?」

「そうね、桐生くんに先を見通す力があるかはわからないけれど」

おばあちゃんはくすくすと笑いました。まるで、桐生くんの顔を思い浮かべたみたいに。いいえ、でもおばあちゃんは桐生くんとあったことがないはずだから、もしかすると、友達の絵描きさんのことを思い出しているのかもしれません。

「アバズレさんに、おばあちゃんは幸せなのかって訊かれたわ」

「そうかい」

「それで、前に幸せだったって言ってた伝えたんだけど、おばあちゃんが幸せな理由は、その絵描きさんのことを思うことができるから?」

おばあちゃんはまたくすくす笑いました。

「ああ、そうかもしれない。それに、なっちゃんのことも、家族のことも、心から思える」

「じゃあ、おばあちゃんも、幸せとは何かっていうのは、誰かのことを本気で思えることだって思う?」

「おやおや、もしかして、その宿題の発表の日が近いのかい?」

こういうのは、図星を指されるというのです。でも、私がおばあちゃんに何度か訊いたことをもう一度訊いたのには他の理由からありました。

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「本当に、答えが知りたくなってきたの。だけど難しい宿題だって思うわ」

ずっとその問題について考えている私の、本当の気持ちでした。

「色んな、色んな幸せがあるのよ。最近色々なことがあって、色々な人達から幸せとは何か、皆の見つけた答えを聞くの。南さんは、認められること、アバズレさんは、誰かのことを考えられることと、桐生くんは、友達がいること。どれも、皆の幸せなんだと思う。だけど私の中の幸せ全部をちゃんと言い表した幸せはまだ見つからないし、どれか一つを選ぶことも難しいの。人生は、お弁当は一緒よね」

「どういう意味だい?」

「好きなもの全部は詰め込めない。それに今はそのお弁当の大きさも名前もわからないわ。ねえ、おばあちゃんがもしひとみ先生に幸せとは何かって問題を出されたら、なんて答える?」

難しい難しい問題。だけれど、おばあちゃんの中にはもう答えがあったみたいでした。きっと、考えてくれていたのです。おばあちゃんは、私の質問に悩んだりせず、いつかのことを思い出すみたいに窓から空を見上げて、答えてくれました。

「幸せとは」

「うん」

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「今、私は幸せだったって、言えるってことだ」

おばあちゃんの答えは、今まで色んな人から聞いた幸せの答えの中で一番わかりやすくて、一番心にすっと染み込むものでshた。だけど。

「それって、ずうっと長く生きていないとあれがないわ、説得力」

「その通り。その幸せは今、なちゃんの何倍も生きてきた私の幸せだ。なっちゃんの幸せとは違う。なっちゃんは、なっちゃんの幸せを見つけなきゃね」

結局、ヒントや方法は教えてもらえても最後は自分で考えるしかないのです。

おばあちゃんと一緒に、壁にかかった絵を見つめてオレンジジュースを飲んでいると、私は急にランドセルの中身のことを思い出しました。

「そういえばね、桐生くんに絵をもらったのよ」

私はランドセルの中から一枚の素敵な絵を取り出しました。桐生くんのことを知っている私からしてみれば、彼が絵を見せてくれるだけでも凄いことなのに、くれたりしたのだから、友達自慢の一つでもしておこうと思うのは当然です。

桐生くんの描いた絵、それは一輪の花の絵でした。鉛筆と絵の具で描かれたそれを見て、おばあちゃんは顔の皺を濃くしました。

「とっても、素敵だ」

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「でしょう?こんな絵を描けるのに、隠してるなんて、こういうのを宝の持ち腐れって言うんだわ。きっと桐生くんはもっと練習したら、おばあちゃんの友達と同じくらい凄い絵描きさんになるわよ」

「うふふ、私の友達は凄いよ?でも、なっちゃんがそう言うなら、そうなるかもsれないね」

負けず凄いの私は「絶対そうよ」と胸を振りました。

それから私はおばちゃんのベッドの端っこに腰をかけて、荻原くんと出来なかった「ぼくらの七日間戦争」の話をしました。あれに出てくる大人達は頭が悪すいぎない?と私が言うと、おばあちゃんは笑いな頭のいい大人より頭の悪い大人の方がよっぽど多いし、頭のいい大人がいい大人とは限らないと言いました。

物語のお話はとても楽しい。本当はこんな風に南さんの物語についてもお話ししたいのに、そう考えていると、いつの間にか私が帰らなければならない時間をベッドの横に置いてある時計が教えてくれました。

私が立ち上がると、おばあちゃんはこれからまたお昼寝をすると言って横になりました。尻尾の短い彼女を連れて、おばあちゃんの邪魔をしないよう、静かに部屋の出口まで歩きます。本当は、そのまま寝室を出てしまうはずだったのですが。

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足を、止めました。

「ねえ、おばあちゃん」

不安になったのです。

「おばあちゃんは、いなくなったりしないわよね?」

おばあちゃんから返事はありませんでした。その代わり、おばあちゃんの気持ちのよさそうな寝息が聞こえてきて、私は邪魔をしないよう、口をチャックを締めて、黒い友達と一緒に木の家を大人しく出ていったのです。

それからも、私は何度かあのクリーム色のアパートに行ったのですが、やっぱりアバズレさんはもう、そこにはいませんでした。

アバズレさんがいなくなってから、私の放課後の行き先は二つだけになってしまいました。丘の上のおばあちゃんの家と、それから。

「僕、オセロあんまり強くないんだけど」

「じゃあ、先の番を譲ってあげるわ」

私は学校が終わると、尻尾の短い彼女を誘って桐生くんの家に行くようになりました。最初の日、オセロを持って出向いた私に桐生くんは驚きましたが、桐生くんの母さんは喜んで私にオレンジジュースを出してくれました。数日も続けて行くと、桐生くんも段々と驚かなくなってくれて、私達は仲良くオセロをしたり一緒に絵を描いたりしました。どっちが上手いかというと、二つの競技を点数にしたらきっと合わせて同点になるはずです。私が桐生くんの家にいる間、ちっちゃい友達はいつも外で持っていました。彼女は人見知りなのです。そして人見知りなのは、桐生くんも、一度、私は彼をおばあちゃんの家へと誘ったのですが、彼は困った顔で固まってしまいました。

「では、桐生くんも桐生くんのお母さんもまた明日まで、ごきげんよう」

別れる時、毎日の決まった挨拶、笑顔の二人に手を振ってから私は黒い友達と一緒に、いつもの丘へと歩くのです。

「しっあわーせは、あーるーいーてこーないー」

「ナーナー」

「もうすぐ夏休みよ。あなたは何をするの?」

「ナー」

「何も、考えてないなんて呑気ね。私はプールに行きたいわ。友達も出来たんだし。せっかくだか人間以外も入れるプールを探しましょう」

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ばつの悪い顔をする彼女。もしかすると、彼女は水が苦手なのかもしれません。

「大丈夫よ。私も二十五メートル泳げないわ。ま、どうしても行きたくないなら別の場所に三人で行きましょう。人生って夏休みみたいなものよ」

「ナー」

「なんでも出来るわ。素敵な過ごし方を深さなきゃ。これはちょっと単純すぎるかしら?」

そんなことを言っていると、いつもすぐにおばあちゃんの家に着きます。私達はいつからかずっと貼られている入れ口の振り紙を見て、いつも通りに中に入ります。木の家の中はいつも通りとても静かで、物音一つ聞こえないけれど、私達はおばあちゃんを渡す必要はありません。

このところおばあちゃんは、いつも寝室のベッドで寝ています。私が部屋に入ってきたところに気がつくこともあれば、気づかずにそのまま寝てしまっている時もあります。私は、おばあちゃんが寝ている時は無理矢理起こしたりはしません。部屋の床に座って本を読んだり、壁にかかったあの絵を見ていたり、小さな友達と遊んでいたりします。おばあちゃんは途中で起きたり、私が帰るまで起きなかったりします。おばあちゃんが起きなかった時、私はいつもノートを千切って今日来ていたことをお手紙で伝えるのです。私は春になると眠くなるわ」

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「歳を取ると時間が経つのが早く感じるから、もしかするとおばあちゃんはもう次の春にいるのかもしれないね」

あるときそんな話を聞いて、私はとても不思議で素敵なことだと思いました。だって、時間が経つのが早かったら楽しいことや嬉しいことの回数がとても増えそうだからです。

それにしても、最近のおばあちゃんはとてもよくお昼寝をしているなと、私は気になりました。

アバズレさんがいなくなってからすぐは、おばあちゃんも起きている日が多く、寝ていても私が行けば目を覚ましてくれたのに、最近のおばあちゃんはいつも寝ていて、私に気が付かない時も多くなりました。そんなに昼寝をしていたら夜寝れないんじゃないかしら、私はそう心配でした。そして私の心配ごとは、それだけではありませんでした。

夏休みが近づいてきたということは、もうすぐ、あの授業の最後の発表が近づいてきているということです。

幸せは何か。私はその答えをまとめられないまま、日々を過ごしていました。このままでは本当に時間が足りなくなってしまいそうです

今日も眠っていたおばあちゃんの横で、私はずっとを腕を組んで天井を見上げていました。だけど、それでもやっぱり、答えは天井が邪魔をしたのか、空から降ってきてくれることはありませんでした。

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