One Straw Revolution
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「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 90ー108
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「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 90ー108

第5(90)

家に帰りたくなかった私は、、放課後尻尾のちぎれた彼女だけを迎えに行って、ランドセルのままアバズレさんのとこrに行きました。いつもの川沿い、堤防の上を歩き四角いクリーム色のキーきみたいな建物を目指して歩きました。いつもみたいに私と彼女で歌ったりは、しませんでした。

建物階段をのぼって、2階の端っこの部屋、いつものドアの前に立ち、チャイムを押します。部屋の中から聞こえるチャイムの音。中からそれ以外の音はしませんでした。

そして、何度押してもアバズレさんが出てくれることはありませんでした。どうやら、今日はお留守のようです。仕方がありません。大人は忙しいのです。

私達は来た道を途中まで引き返して、いつもの丘に向かいました。丘に下、桐生くんのお父さんがよくいた公園から左右に分かれるのぼり道、今日は、おばあちゃんの家に続く右の道を選びます。南さんのところへは昨日も行ったから、まずはおばあちゃんのところに行こうと思ったのです。

今日の毛艶のいい彼女と私はおでこに汗を滲ませんがら、丘を登って行きます。友達に会ってお話をすれば、少しはこの心が暗れてくれるかもしれない。そう願いながら。

だけれど、おばあちゃんの家で私の心がくられることはありませんでした。大きな木の家の大きなドアは、何度ノークしても声を返してくれることはなかったのです。

私は溜息をついて、私より小さな友達を見下ろしました。

92

「大人達は皆、私を掘っておくのね」

「ナー」

こうなったら、私の知る大人達の中では、一番私に近い、南さんに会いに行くしかありません。

丘を下り、今度は左手の階段をのぼっていきます。黒くて小さい彼女はいつも同じように元気に、軽やかにその体を弾ませました。でも、私の体は時間が経つことに、まるで体の中心に鉄のボールを一球ずつ入れられているたいに、重たくなっていくめを感じました。

いつもの鉄の門を開け、更に階段をのぼって広場に出ると、冷たく大きな箱が、まるでそこにぽんと置いてあるだけのように今日も建っていました。

箱の中に入って屋上まで行くと、南さんは私を持ってくれていました。

私は、何も言われずに南さんの隣に座ります。尻尾のない彼女のここでの定位置は、南さんの膝の上です。

そこで、私はやっと気がつ来ました。南さんの様子がいつもと違いました。少しだけ失礼して、南さんの前髪をそっと指でずらすと、奥の目は柔らかく閉じられていました。

「南さん」

93(4:14)

声をかけると、南さんはキーきの箱を開ける時くらいそうっと目を開けました。私と片目だけ目が会うと、南さんは「おう」と言ったので、私も「ごきげんよう」と返しました。

「ここは、お昼寝にはとてもいい場所みたいね」

「。。また、同じ夢を見てた」

「同じって、どんな夢?」

「子供の頃の夢だ。よく見るんだ。学校は、楽しかったか?」

「いいえ、全然」

「だろうな。全然楽しそうな顔してねーもん」

南さんはこっちを見ていないようでいて、実はその長い前髪の間から私をこっそり見ていてくれてあるようです。私は、私に元気がない話なんて、話題を変えることにしました。好きなことの話をすれば、私の顔も南さんに元気がないと気づかれないくらいには明るく咲いてくれると思ったのです。南さんの手首の傷がどんどん消えていくように、鉄の塊が消えていってくれると思ったのです。

「私、考えてみたのよ」

「どうして小学校が楽しくないのか、か?最初から楽しいとこじゃねええんだよ」

「それはその通りだけど、違うわよ。私は考えたの、南さんの物語、どこか本を出している会社に見せてみるのはどうかしら?」

94(5:51)

南さんは、珍しくこっちをしっかりと向いて、ギョッとした顔をしました。

「なんこと、いきなり何言ってんだよ」

「南さんの物語をたくさんの人に読んで貰えない理由は、南さんの大切なノートに書いてあるからだって気がついたの。そのままじゃあ、ここに来ないと読めないじゃない。だったら、その物語を本にして貰えばいいのよ。そしたら、図書室に南さんの本が並ぶし、アブズレさんやおばあちゃんにも紹介できる」

「誰だ、そのアバズレってのは」

「私の友達よ」

「変な友達もってんじゃねよ」

「変じゃないわ。とても素敵な人のよ。季節を売るお仕事をしてるの、素敵でしょ?」

南さんは口元を不思議そうに歪めて、「お前は変な奴に近寄るのが好きなのかよ」と言ったので、私は「かもね」と南さんの真似をした私の前をした南さんの真似をしました。

「南さんのお仕事も素敵よ。南さんの物語を読んだらきっと本を作る会社の人達は南さんを放さないはずよ。そしたら、南さんは毎日物語を書くの。世界中の皆の心にもう一つの世界を作り続けるよのよ。マーク・トウェインやサン・テグジュペリみたいだ」

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「あのな、ガキが簡単に言うけど」

「そして物語は家でも書けるんだから、家族が出来て、子供もが生まれても、一緒に遊んだり、一緒に旅行したり、授業参観に行ったり出来て、その子を寂しからせることもない」

ぽろりとこぼれた私の心の破片。南さんは、優しくそれを溜息で押し流してくれました。

「簡単に言うな、ガキ」

「ええ、難しいわ。素敵な物語を書くって。だから、素敵なお話を書ける南さんのことをもっと皆に知ってもらいたいの」

南さんは、さっきよりもっと大きな溜息を吐きました。そして、怒っているとも、悲しんでいるとも言えるような声で、でもその感情を決して私に向けることなく、言いました。

「いいか、私の書く話な素敵でも何でもないんだよ。私なんか、ただ文を書くのが好きなだけだ。世界には、私なんかより才能のあるや奴らがいっぱいいるんだ。それくらい、すぐに気がづく。私なんかに書く話は面白くもなんともない」

南さんは、苦い虫を噛みつぶすように言いました。

「私なんか、作家にはなれない」

私は、子どもなりに南さんの言葉の意味を受け止めました。

そして考えて、首を傾げました。

96(9:17)

南さんの言っていることはおかしいわ」

「何がよ」

「南さんはもう作家さんでしょ?」

今度は南さんが首を傾げる番でしたが、私は南さんが不思議そうにする意味がわかりませんでした。

「だって、作家っていう人達は、物語を読んだ人達の心に新しい世界を作るから作家っていうんでしょ?それから、私はまだ作家じゃないけど、南さんはもう作家よ。私の心の中に、それは素敵な世界を作ったもの」

もちろん、お仕事というものがお金を稼ぐだめのもので、作家と呼ばれる人達が本を売ってお金をもらっていることは、子供の私も十分にわかっていました。だけれど私は本当に、作家という言葉が授業の名前だとは思っていなかったのです。物語を書いていることと本をうってお金を稼ぐことを、私はまるで関係のない活動だと思っていたのです。

私にとって作家さんとは、本を売る人ではなく、物語を紡ぎ、人の心に世界を作る素敵な人達、ただそう思っていて、その中には南さんの名前がしっかりと並んでいました。だから、南さんのいうことはおかしいと思いました。

南さんも、それをわかってくれたみたいです。キョトンとした南さんは、何度か息を吸ったり吐いたりをくり返して、それから口元で少しだけ笑いました。

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「さっか」

「そうよ。だから、もっと皆に読んでもらうために南さんの物語を本にしてもらいましょう」

南さんは何も答えませんでした。その代わり、前をめてずっと柔らかい笑顔のままでいました。それで、南さんは私のアイデアを作ってくれるんだわと嬉しい気持ちになって、私もまた南さんと同じ表情になって、正面に拡がる空を見ました。

でも、私の嬉しい気持ちは、長くは持ちませんでした。

「幸せとは何か」

私が正面の空に体を吸い込まれてしまいそうだなと思っていたら、南さんが突然言いました。

「幸せとは何か、の答えは出たか?」

聞かれて、私は忘れようとしていたことを思いでしてまって、目をコンクリートの床に向けました。

「いいのよ、それはもう」

「答えが見つかったのか?」

98(12:27)

「いいえ、でも、もう、いいの」

「なんだそりゃ。あーあ、せっかく答えが見つかったのに」

南さんの言葉に私は驚きました。そして、もういいと思ったはずだし、いったはずだったのに、南さんが見つけたという答えが気になって仕方なくなりました。

「何、教えてほしい」

「もういいんじゃないのかよ」

「うん、もういいの、だけど、南さんの考えた答えが知りたいわ」

南さんは、もったいぶったように私の目をじっと、前髪の奥の目で見て、それからやっぱり大事なことは私の方は見ず、ただ前の空を見ながら、ポツリと床に置くように言いました。

「自分がここにいていいって、認めてもらえることだ」

南さんの答えに、私は首を傾げます。

「ここって、屋上?この物語の持ち主に認めてもらえたの?」

「かもね」

南さんは、南さんの真似をした私の真似をした南さんの真似をした私の真似をしました。

南さんの幸せとは何かの答えの意味、それが私にはまだよくわかりませんでした。やっぱり自分の幸せの答えは、自分で見つけなくちゃいけないんだなと思いっました。

99 (14:05)

南さんと新しく読み始めた本のお話をしていると、空が歩くなり、風も冷たくなっていつの間にか遠くからチャイムの音が聞こえてきました。

「おち、帰る時間だぞ、ガキ」

南さんにそう言われても、私はいつものように立ち上がって、四本足の友達に声をかけることはしませんでした。

「帰らなくていいのか?」

「帰りたくないのよ」

「親を心配させんな」

「別にいいのよ」

私の言葉に、南さんは薬と笑いました。

「怒られたのか?」

「怒られたんじゃないわ。喧嘩したのよ」

南さんは、笑ったままこちらを向きました。面白くもなんともないのに失礼しちゃうわ、と少しだけ思いました。

「いいか、ガキ。今から家に帰ると、お前のお母さんはいつもと同じように夜ご飯を用意してくれてる。いつもと同じ、美味しいご飯だそれを食べる時、一言だけ言うんだ。昨日はごめんねって」

100

「嫌よ」

「強情な奴だ」

「だって、私よりあっちの方が悪いもの」

「喧嘩の理由なんてどうせくだらないもんだろ」

南さんの言い方に、私は少しむっとしました。

「くだらなくないわ。いっつもいっつも、お父さんもお母さんも、仕事だって言って私との約束を破るの」

「仕事はお前が思うよりずっと大事なもんなんだ」

「わかってるわよ、そう、子供よりずうっと仕事が大事なの」

「何ことないよ」

「じゃあ、どうしていっつも私と約束より仕事を優先するの?今回もそう。出張だから、授業参観に来られなくなったって」

「え」

私が言い終わるのと、南さんが何かを言いかけたのはほぼ同時でした。正面から強い風が一度吐きました。突然の風に、私は目を瞑ってしまいました。

101(16:34)

やがて風が私の長い髪を弄ぶのをやめ、私はゆっくりとまぶたを開いて、もう一度南さんの方を見ました。

だった数秒。風が奪ったのは、たった数秒だったはずです。

だから、そんな短い時間で何が起こったのか、すぐにはわかりませんでした。

「南、さん」

まるで、それは触ったら縮んでしまうオジギソウみたいでした。

南さんの顔から、口元から、さっきまでの笑顔が完全に消え去っていました。

前触れのない南さんの変化に、私は驚きます。

「どうか、したの?」

私がきちんと訊いたのに、南さんは、答えてくれませんでした。ただ、無言で首をふるふると横に振るだけ。なんでもない。そう言いたかったのでしょう。でも、それがなんでもなくないことくらい、子どもにでも分かりました。

「ねえ、南さん」

「おい、奈ノ花」

南さんの声は震えていました。震える声で、私の名前を呼びました。南さんから、ガキ、以外の呼ばれ方をされたのは初めてで、私はおかしな感じがしました。どうして名前で呼ばれたのかも、南さんが増えている理由もわかりません。だから、もう一度訊きます。

102(18:27)

「どうしたの?」

「奈ノ花。。。」つ、私と、約束しろ」

南さんは、私の質問を無視しました。そしてまたも突然でした。南さんは私を体の正面に迎え、私の肩を掴みました。正面から見る南さんの全髪の奥の目は、今までに見たことがない色をしていました。

「や、約束?」

「約束。いや、私からの頼みでもいい。聞け」

「いきなり、どうしたの南さん」

「いいから聞け。一つだけだ。今から帰ったら、絶対にな親と仲直りをしろ」

意味が分からない南さんからのお願い。つい首を横に振る私に、南さんは続けました。

「いいか、お前の気持ちは、分かる。寂しかっただろうし、悔しかったんだろ。それで、お前のことだから、ひどいことも言っちゃっただろう。意地になって、引き下がれないのも、分かる。だけど、それでも今日、お前から謝れ。ごめんんさいって、言え」

103(20:11)

「ずっと後悔することになるんだぞ!」

南さんの風を切るような大声に、今度は私が震えました。震えて、南さんの顔を見て、もう一度、震えました。

南さんは、怒っていました。それも、どうしてか、今度はその怒りがしっかりと私に向いているように思えたのです。

何がなんだか、子どもの私にはもうさっぱりでした。そんな私を無視して、南さんは言いました。意味の分からないことを、言いました。

「後悔、してる。ずっと、後悔、してるんだ。あの時、なんで謝れなかったのかって。もう、喧嘩も出来な苦なった。夜ご飯も一緒に、食べられなく、なった」

「南さん、何を、言ってるの」

「私は、もう謝ることも出来ない。だから、頼む」

南さんは目からすうっと一筋、水をこぼしました。私の知る限り、大人の涙ほど、子どもを驚かせるものはありません。

自分が泣いていることに気がついて、それを隠そうとしたのでしょう。南さんは目を無理矢理に袖で拭きました。

104(22:02)

「いいか、人生とは、自分で書いた物語だ」

南さんは、私の口癖を真似しました。だけれども、私にはすぐにその答えがわからなかったので、いつも私が訊かれるように、「どういう意味?」と言って首を下とげま傾げました。

「推敲と添削、自分次第で、ハッピーエンドに書きかえられる。いいか、別に喧嘩しちゃい毛ないんじゃない。でも、喧嘩することと仲直りがセットだってこと、あの時の私にはわからなかったんだ。でもお前は賢いから、分かるはずだ。お母さんが、授業参観に行けないってわかった時、お前と同じくらい悲しかったこと。一緒に選べないのが、お前と同じくらいに寂しいこと。それでも、お前に大好きな料理を食べさせるために働いて働いて、その中で、お母さんがお前と夜ごはんを必ず一緒に食べてくれることの意味。お父さんが誕生日には必ずお前の欲しいものを買ってきてくれることの理由を、わかってるはずだ」

「。。。。」

南さんに言われて、私は思い出の中からそれらをひっぱりだしました。

仕事が終わっていないのに、私と一緒にご飯を食べて、それからもう一度出かけていくお母さん。私が欲しいと言ったぬいぐるみを、近くのお店にないからと言って遠くの町まで買いに行ってくれたお父さん。今日の朝、私は怒って口もきなかったのに、用意された朝ご飯も食べなかったのに、出かける。背中に聞こえた「いってらっしゃい」のこと。

105 (24:19)

私は思い出していました。

「私みたいに、喧嘩したっまもう会えないなんことになってほしくない」

その言葉でやっとです。私は南さんがどうして大人なのに泣いたのか、わかりました。

「だから、約束してくれ。今日、出来なくてもいい。明日でもいい。でも絶対に仲直りするって。時間は、戻ってこないんだ」

南さんは、前髪をかきあげて、私の目をしっかりと見ました。初めて見る南さんのまっさらな顔は、アバズレさんみたいに透明で、おばあちゃんみたいに優しくて、素敵でした。

私は友達からのお願いをどうでもいいと思えるような子ではありませんでした。だけれども、すぐに昨日のことを全部忘れてしまえるような頭の悪い子でもありませんでした。

だから、考えました。いっぱいいっぱい考えました。私のちっちゃい頭を使って、たくさん考えました。

何が正しいのか。何がかしこいのか、何が優しいのか。

そして、考え抜いた私は、南さんの顔を見て頷いていたのです。

「分かった。約束するわ」

私の言いに、南さんの目じりに残っていた最後の一滴がこぼれました。

106(26:23)

「ありがとう」

「でも、南さん、私にも約束して」

今度は、南さんが不思議な顔をする番でした。

「本を出せって」

「そうね、それもそう。でも、それ以上よ。約束して欲しいの。南さんは、幸せが何おか分かったんでしょ。でも、幸せじゃないって、前に行ってたわ。私、友達が幸せじゃないなんて嫌なの。だから、お願い。南さんも、書き直して」

泣いている南さんを見てあの時泣いてしまった私にに渡してくれたハンカチを思い出して、私は、南さんの幸せの幸せを願わずにはいられませんででした。友達にはずっと笑っていてほしい、そう願わずにはいれらませんでした。

私のお願いに南さんはきょとんとしました。でも、すぐににっこり笑って、ゆっくりと頷いてくれました。

「約束する。うん、約束するよ」

二人、短い小指を合わせて指きりげんまんをする私達を、金色の友達が見上げていました。きっと、何が起こっているのか彼女にはわからないことでしょう。実は、私にも、南さんがどうしてこんなにも私とお母さんのことを考えてくれるのか、その理由はわかりませんでした。だけれど、私がお母さんと仲直りをしなくちゃいいけない理由は、しっかりとわかりましあた。

107(28:29)

「それじゃなあな」

私達と小さな友達が屋上を離れる時、南さんはこっちを見てそう言いました。いつもは手をひらひらとさせるだけなのに、今日はこっちを向いてくれていることが嬉しくて、私は南さんににっこりと笑いかけました。今日、私と南さんは、前までよりもっともっと友達になれたのだと、そう嬉しくなりました。

少し早足で歩いて家に帰ると、もうお母さんが帰っていることは、マンションの下に停まっていいる青い車で分かりました。

私は、小さな友達と別れてから一度、深呼吸をしまたした。

そうしてエレベーターで私達家族の家がある11階に上り、廊下を歩いてドアの前に立ったところで、もう一つ深呼吸。心に、隙間を作るのです。悲しい、寂しい、悔しい、そういう悪い奴らを、隅に押しやるのです。そうすれば空いた隙間に、私はいくらでも楽しいことを詰め込めるはずから。そう自分に言い聞かせて。何度も、南さんの顔を思い出しました。

覚悟を決め、私は何度目かの深呼吸を、息を吸った状態で止めました。そのまま鍵を開け、ドアノブに手をかけ、吸った息を全てはきだすつもりで、持ち前の大きな声を家の中に響かせました。

「だだいま!」

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