「すみません。もう大丈夫です」と彼は言った。そして今向かい合っている相手が小松であることを確認した。二人は新宿駅近くの喫茶店で打ち合わせをしている。まわりの話し声も音通の話し声として聞こえるようになった。隣りのテープルに座った二人連れが、何ごとが起こったのだろうと訝ってこちらを見ていた。ウエイトレスが不安そうな表情を顔に浮かべて近くに立っている。座席で吐かれるのを心配しているのかもしれない。天五は顔を上げ、彼女に向かって微笑み、肯いた。問題はない、心配しなくていい、というように。
「それって、何かの発作じゃないような?」と小松は尋ねた。
「たいしたことじゃありません。ただの立ちくらみのようなものです。ただきついだけで」と天五は言った。声はまだ自分の声のようには聞こえない。しかしなんとかそれに近いものにはなっている。
「車を運転してる時なんかにそういうのが起こると、なかなか大変そうだ」、小松は天五の目を見ながら言った。
「車の運転はしません」
「それは何ようりだ。知り合いにスギ花粉症の男がいてね、運転中にくしゃみが始まって、そのまま電柱に打つかっちまった。ところが天五くんのは、くしゃみどころじゃ済まないものな。最初のときはびっくりしたよ。2回目ともなれば、まあ少し慣れてくるけど」
「すみません」
すみません。もう大丈夫です」と彼は言った。
"I'm sorry. It's all right now," he said.
そして今向かい合っている相手が小松であることを確認した。
Then he confirmed that the person he was facing now was Komatsu.
二人は新宿駅近くの喫茶店で打ち合わせをしている。
The two were having a meeting at a coffee shop near Shinjuku Station.
まわりの話し声も音通の話し声として聞こえるようになった。
The surrounding voices also started to sound like audible voices.
隣りのテープルに座った二人連れが、何ごとが起こったのだろうと訝ってこちらを見ていた。
A pair sitting at the next table were looking over here, wondering what had happened.
ウエイトレスが不安そうな表情を顔に浮かべて近くに立っている。
The waitress stood nearby with an anxious expression on her face.
座席で吐かれるのを心配しているのかもしれない。
She might be worried about someone throwing up in their seat.
天五は顔を上げ、彼女に向かって微笑み、肯いた。
Tengo raised his face, smiled at her, and nodded.
問題はない、心配しなくていい、というように。
As if to say there was no problem, no need to worry.
「それって、何かの発作じゃないような?」と小松は尋ねた。
"Isn't that like some kind of seizure?" Komatsu asked.
「たいしたことじゃありません。ただの立ちくらみのようなものです。ただきついだけで」と天五は言った。
"It's nothing serious. Just like a bit of dizziness, that's all," Tengo said.
声はまだ自分の声のようには聞こえない。しかしなんとかそれに近いものにはなっている。
His voice still didn't sound like his own, but somehow it was getting closer.
「車を運転してる時なんかにそういうのが起こると、なかなか大変そうだ」、小松は天五の目を見ながら言った。
"It must be quite difficult if something like that happens while you're driving," Komatsu said, looking into Tengo's eyes.
「車の運転はしません」
"I don't drive a car."
「それは何ようりだ。知り合いにスギ花粉症の男がいてね、運転中にくしゃみが始まって、そのまま電柱に打つかっちまった。ところが天五くんのは、くしゃみどころじゃ済まないものな。最初のときはびっくりしたよ。2回目ともなれば、まあ少し慣れてくるけど」
"That's for the best. I know a guy with cedar pollen allergies, he started sneezing while driving and crashed right into a utility pole. But what you have, Tengo, is no mere sneeze. I was shocked the first time. By the second time, well, you get a bit used to it."
「すみません」
"I'm sorry."
Interesting Vocabulary :
確認 (かくにん): confirmation, verification
喫茶店 (きっさてん): coffee shop
打ち合わせ (うちあわせ): meeting, arrangement
訝る (いぶかる): to wonder, to doubt
表情 (ひょうじょう): facial expression
心配 (しんぱい): worry, concern
発作 (ほっさ): seizure, attack
立ちくらみ (たちくらみ): dizziness, lightheadedness
電柱 (でんちゅう): utility pole




